不正競争防止法における「不正競争」行為の裁判上での認定について、平成30年3月26日知的財産高等裁判所判決(「不正競争」行為に関する部分)を題材にみていきます。
(不正競争防止法2条1項)
8号「その営業秘密について不正開示行為(7号に規定する開示行為,法律上の秘密保持義務違反)であること若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、もしくは重過失により知らないで営業秘密を取得し、またはその取得した営業秘密を使用し、または開示する行為」
10号「4号から9号までに掲げる行為により生じた物を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸出し、輸入し、または電気通信回線を通じて提供する行為」
(ケース)
原告会社(X)が保有していたコンピュータに関する営業秘密情報(5種類)について、被告会社(Y)が不正開示を受けて取得し、取得した営業秘密情報を使用してY製品を製造販売したことは、不正競争防止法2条1項8号及び10号に該当するとして、製造販売の差止め・廃棄・損害賠償請求を行った。「不正開示行為であることを知って、もしくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得又は使用し、不正使用行為により生じた物を譲渡したか」が争点となった。(その他、当該情報の営業秘密該当性、損害の額についても争点となった。)一部の情報に関して不正競争防止法2条1項8号及び10号該当性が認められ、Xの請求が一部認容された。
(前提事実)
(1)Xは,ケーブルテレビ関連機器の開発,製造,販売の事業の譲渡を受けた。
(2)Aは,X在職中の平成25年6月21日にYを設立し,AがYの代表取締役,BがYの取締役に就任した。A及びBは,同年7月15日,Xを退職した。Cは,同年6月15日,Xを退職し,Yが設立された後,Yに入社した。
(3)Dは,平成24年7月15日にXを定年退職した後も業務委託社員としてXに勤務していたが,平成25年7月頃から,Yに出入りするようになった。
…Dは,その頃,Xの社内サーバから,X製品1及び2のPCソースコードをUSBメモリにコピーして社外に持ち出した。…その後,A,B及びCは,平成26年1月頃,Dに対し,Y製品3及び4のPCソフトを開発するよう指示した。
Dは,その頃,Xの社内サーバから,X製品3及び4のPCソースコードを,USBメモリにコピーして社外に持ち出した。…Yは,YのPCソフトを内蔵パソコンに搭載したY製品1及び2を製造するとともに,外付けのパソコンにYのPCソフトを搭載して用いるY製品3及び4を製造した。
(4)Yは,平成25年11月20日及び21日,E株式会社に対し,Y製品1につき1台150万円とする見積書を差し入れ,同年12月5日に同社からY製品1の製造・販売を1台150万円で受注し,平成26年2月28日,Y製品1を同社に納品した。
Yは,平成25年12月3日,F株式会社からY製品2の製造・販売を1台250万円で受注し,平成26年3月3日,Y製品2を指定された納品先に納品した。
Yは,同年1月8日,G株式会社から,Y製品3及びY製品4各2台の製造・販売を,それぞれ1台当たり59万円で受注し,同年2月7日,Y製品3及び4を指定された納品先に納品した。
(5)Dは,平成26年2月14日にXとの業務委託契約を終了し,同月17日,Yとの間で,製品の組立て,調査,検査,図面作成等を委託業務とする業務委託契約を締結したが,同年4月18日,Yからの業務受託を終了した。
(裁判所の判断)
(1) PCソースコードについて(認められる。)
ア DによるXのPCソースコードの不正開示について
(ア)前記1認定のとおり,Y製品1ないし4のPCソースコードは,いずれも Dが,平成25年12月ないし平成26年1月頃に,A,B及びCから作成の指示を受け,その頃作成したものである。
(イ)X製品1のPCソースコード,X製品2のPCソースコード,X製品3及び4のPCソースコードを,それぞれ,XがY製品1のPCソースコードの一部として提出するもの,Y製品2のPCソースコードの一部として提出するもの,Y製品3及び4のPCソースコードの一部として提出するものと対比すると,一致する表現が多数認められる。
そして,Y製品1ないし4のPCソースコードには,以下のとおり(省略),X製品1ないし4のPCソースコードに依拠して作成されたことをうかがわせる記載がある。
…以上によれば,Dは,Y製品1ないし4のPCソースコードを作成するに当たって,X製品1ないし4のPCソースコードに依拠したことが推認される。
(ウ)原審証人Dは,平成25年12月ないし平成26年1月頃,XのパソコンからXのPCソースコードをUSBメモリにコピーして持ち出し,これを用いてYのPCソースコードを作成したと供述する。かかる供述は,Dが,平成26年2月14日まではXの業務委託社員で,XのPCソースコードについてアクセス権限を有しており,平成25年12月ないし平成26年1月当時,本件情報を入手することが可能であったこと,Dが,YのPCソースコードを作成するに当たって,XのPCソースコードに依拠したことと整合し,信用することができる。
そして,前記1の認定事実によれば,Dは,平成25年12月ないし平成26年1月当時,Xの業務委託社員であり,Xの就業規則により,Xの営業秘密を保持する義務を負っていたことが認められる。
そうすると,Dは,Xにおいて営業秘密として管理されている本件情報について秘密保持義務を負っていたにもかかわらず,XのPCソースコードを持ち出し,Yに開示したのであるから,秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を不正に開示したものというべきである。
イ Yの故意又は重過失について
前記1の認定事実によれば,Dは,A,B及びCから,平成25年12月ないし平成26年1月頃,X製品と同等のY製品に使用するためのYのPCソフトを作成するよう指示を受け,その作成に及んだこと,…Dは,当時,Xの業務委託社員で,Xのソフトウェア開発の責任者であった者であり,XのPCソースコードへのアクセス権限があったことが認められる。
これらの事実によれば,Aらは,Xのソフトウェア開発の責任者で,XのPCソフトを熟知しており,現にXに勤務し,XのPCソースコードへのアクセス権限を有するDに対し,X製品と同等のY製品に使用するためのYのPCソフトを作成するよう指示し,その際に,…指示しているのであるから,明示的にDに対し,XのPCソースコードを持ち出すように指示することまでしたとは認められないとしても,DがXのPCソースコードを持ち出し,その基本ソフトやディスプレイ画面を変更して,YのPCソフトを作成することを,少なくとも容易に認識し得たと認められる。よって,Yにおいて,DがXの営業秘密であるXのPCソースコードを不正に開示していることを認識しなかったことについては,重大な過失があるというべきである。
ウ 小括
以上によれば,Yが,Dが,Xの営業秘密であるXのPCソースコードを,秘密保持義務に違反して不正に開示していることにつき,重大な過失により認識しないで営業秘密を取得した上,当該営業秘密を用いてYのPCソフトを作成した事実を認定することができる。
(2) マイコンソースコードについて(認められない。)
Xは,Dが,XマイコンソースコードをXの社内サーバからUSBメモリにコピーして社外に持ち出したと主張し,原審証人Dもこれに沿う供述をしている。
しかしながら,本件では,X製品3及び4,Y製品3及び4のいずれのマイコンソースコードも提出されておらず(なお,Xは,マイコンソースコードについては,文書提出命令を申し立てていない。),Dの上記供述内容については客観的に裏付けられていない。
…前記認定のとおり,Dが,X在籍中にXのPCソースコードを持ち出してYのPCソフトを作成し,平成26年2月14日にXとの業務委託契約を終了した後,同月17日にYと業務委託契約を締結し,同年4月18日,Yからの業務の受託を終了したとの経緯に照らすなら,DがXに有利に虚偽の供述をする可能性も否定できず,客観的裏付けのないD供述のみを根拠に,Dが,XマイコンソースコードをXの社内サーバからUSBメモリにコピーして社外に持ち出した事実を認定することはできない。
よって,マイコンソースコードについては,Dによる不正開示行為があったことの立証が尽くされたということはできない。(その余の3種類のデータについても回路図・部品データ等が一見して異なるとして認められないと判断された)