不正競争防止法によって保護される色彩商標(色彩のみからなる商標)について、平成9年3月27日大阪高等裁判所判決を題材にみていきます。
(ケース)
家電製品を製造する原告会社が、濃紺色を使用した家電製品を製造していたところ、同様の色彩を使用して家電製品を製造していた被告会社に対し、濃紺色を使用した家電製品を製造することは不正競争防止法上の混同惹起行為にあたるものであり、製造・販売等の停止及び損害賠償を求めたが、請求が認められなかった。
(法律上の規定) 不正競争防止法2条1項1号(混同惹起行為の定義規定)
他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の「商品又は営業を表示するもの」をいう)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
※「商品又は営業を表示するもの」であることすなわち出所表示機能が必要であり、単に用途や内容を表示するに過ぎない場合には商品等表示に含まれない。
(前提事実)
一 原告製品の製造販売
原告は、昭和五九年に「〇〇」の名称を付したシリーズ家電製品八品種一〇品番の製造販売を開始し、その後次第に別表記載のとおり対象商品の品種及び品番を増やし、平成四年には家具等の電気製品以外の製品も対象商品に加えた結果、「○○」シリーズの製品は平成五年現在で二六品種三六品番に上っている(以下、これら「○○」シリーズの製品群をまとめて「原告製品」という)。
二 被告製品の製造販売
被告は、「××シリーズ」の名称を付した別紙(1)ないし(6)記載の製品(以下、これらの製品群をまとめて「被告製品」という。)の商品展示会を各開催し、その後継続して被告製品を製造販売している。
(争点)
1 原告主張の原告製品の特徴は原告の商品であることを示す出所表示機能を取得しているか、周知性を獲得しているか。
2 被告製品と原告製品との間に混同を生じるか。
3 被告の行為が不正競争行為に該当する場合、被告が賠償すべき原告の損害の額。
(裁判所の判断)
一 色彩の商品表示性について
原告は、原告製品の特徴、特にそこで使用されている「濃紺色」が原告製品の商品表示である旨主張するところ、一般論としては、単一の色彩であっても、特定の商品と密接に結合しその色彩を施された商品を見たりあるいはその色彩の商品である旨の表示を耳にすれば、それだけで特定の者の商品であると判断されるようになった場合には、当該商品に施された色彩が、出所表示機能(自他識別機能)を取得しその商品の商品表示になっているということができ、その可能性のあることは否定できない。
しかしながら、色彩は、古来存在し、何人も自由に選択して使用できるものであり、単一の色彩それ自体には創作性や特異性が認められるものではないから、通常、単一の色彩の使用により出所表示機能(自他識別機能)が生じ得る場合というのはそれほど多くはないと考えられる。また、仮に、単一の色彩が出所表示機能(自他識別機能)を持つようになったと思われる場合であっても、色彩が元々自由に使用できるものである以上、色彩の自由な使用を阻害するような商品表示(単一の色彩)の保護は、公益的見地からみて容易に認容できるものではない。こうした点からすれば、単一の色彩が出所表示機能(自他識別機能)を取得したといえるかどうかを判断するにあたっては、その色彩を商品表示として保護することが、右の色彩使用の自由を阻害することにならないかどうかの点も含めて慎重に検討されなければならない。また、商標法や意匠法において、一般に、色彩は、文字、図形、記号等と結合して(商標法二条一項)、あるいは物品の形状、模様等と結合して(意匠法二条一項)、商標(商品商標)や物品の意匠になると考えられていることも考慮されなければならない。
そうすると、単一の色彩が特定の商品に関する商品表示として不正競争防止法上保護されるべき場合があるとしても、当該色彩とそれが施された商品との結びつきが強度なものであることはもちろんとして、①(該色彩をその商品に使用することの新規性、特異性、②当該色彩使用の継続性、③当該色彩の使用に関する宣伝広告とその浸透度、④取引者や需要者である消費者が商品を識別、選択する際に当該色彩が果たす役割の大きさ等も十分検討した上で決せられねばならず、それが認められるのは、自ずと極めて限られた場合になってくるといわざるを得ない(これを前提とすれば、いわゆる「色彩の涸渇」の点は必ずしも大きな問題になるものではないと考えられる。)。
二 原告製品が濃紺色の家電製品であることが原告の商品であることを示す出所表示機能を取得しているか否かについて
1 「濃紺色」と原告製品との結びつき
原告が商品表示であるという「濃紺色」は、元々、シリーズ商品である原告製品の色彩として採用されたものであるが、「濃紺色」と原告製品の結びつきの点に関しては、以下のような問題がある。
(一) 同一機種で他色を使用した原告家電製品の存在
(1) 原告が製造販売する家電製品の中には、原告製品と同一機種でありながら「濃紺色」以外の色を使用した製品がある。
(2) 原告は、同一機種で濃紺色以外の色彩を施した製品は、原告製品と厳格に区別して販売されているので、右のような他色を施した製品の存在は「濃紺色」の出所表示力を弱めるものではない旨主張するが、同一機種でありながら、原告製品に属するものと属しないものがあることは、「濃紺色」の製品もいろいろな色彩の製品の中の一つという印象を与えることは否定できず、同一機種につき一種類の色彩のみが使用されている場合に比べれば、「濃紺色」という色彩の出所表示力が減退することは否定できないといわざるを得ない。
(二) 「濃紺色」と同系統色使用の原告家電製品の存在(抄)
原告が製造販売している家電製品の中には、原告製品に属しないにもかかわらず、濃紺色系の色彩を施した製品が多数存在する。この事実は、原告製品の「濃紺色」の出所表示機能の取得、維持を考える上では負の要因であるといわざるを得ない。
(三) 原告製品中の家電製品以外の製品の存在
原告製品の中には、自転車、デスク、チェアー、ベッド等が含まれており、「○○シリーズ」の名のもとに販売されている。右各製品は、どのように見ても家電製品とはいえないから、対象商品のこのような構成の仕方も、原告製品の濃紺色の「家電製品」と特徴づけるという面からみれば、負の要因であるといわざるを得ない。
(四) 原告製品における黒色の混在
(1) 原告製品は、必ずしも製品全体が濃紺色一色に彩色されているわけではない。平成六年の原告製品に限っても、…など目立つ部分に黒色が使用されている。
2 色彩の新規性
(一) 原告は、家電製品に「濃紺色」を使用したことの新規性を強調する。
(二) しかしながら、「濃紺色」自体は、格別、特殊な色ではなく、従来から広く親しまれた色彩であるし、原告製品に使用されている「濃紺色」と同一ではないにしても、これに近い色彩が、原告製品の販売前に家電製品に使用された例がないわけではない。
3 「濃紺色」の継続使用と原告製品の販売状況
(一) 原告は、「濃紺色」の継続使用を主張する。
(二) しかしながら、原告製品の各種宣伝広告媒体物によってみる限り、被告が、原告製品の形態及び色彩は、昭和五九年の発売以来現在まで相当程度変遷を重ねているというのも理由のないことではない。
(四)また、原告製品は、毎年二月中旬頃から四月下旬頃までの大学入学、就職、転勤等の時期に、単身者向けのシリーズ製品であることが消費者に分かりやすいように一つのコーナーにまとめて展示(集合展示)して販売されることが多いが、右の時期以外の時期には、各製品が単品でファミリー用の他社製品と一緒に同じコーナーにおいて、特に単身者向けのシリーズ製品であることを示さないで展示販売されることも多い。したがって、原告製品のこのような販売方法は、右の時期以外においては、その出所表示力の取得、維持の面からいえば負の要因になるといわざるを得ない。
4 原告製品識別、選択の動機
(一) 原告は、各年の「○○愛用者カード分析」の結果より、原告製品が「濃紺色」で統一されていることが、原告製品を識別、選択する上での大きな動機付けになっている旨主張する。
(二) しかしながら、右分析の結果は、○○製品を購入もしくは使用した者からの回答を集計したものであり、○○製品を購入もしくは使用したことのない需要者層は対象となっていないと考えられること等を併せ考慮すると、カラーすなわち原告製品が「濃紺色」であることが原告製品を識別、選択する上で大きな動機付けとなっているとする原告の右主張はたやすく採用できない。
(三) そして、原告製品の多くは、耐久消費財である家電製品であって、その価格は、低いものの中には一万円以下ないし一万数千円程度のものもあるが、数万円台の洗濯機、オーブンレンジや一〇万円近いテレビ、一〇万円を超えるワープロ等もあって、決して低廉なものばかりではないのであるから、消費者がその色彩のみに着目して製品を識別、選択して購入するとは考えられず、実際に小売店舗において製品を手に取り、製品の機能性、安全性、堅牢性について自分自身で他の製品と比較検討したり、それがどのメーカーの製品であるかを確認したうえで製品を選択し購入するのがむしろ通常であると考えられる。現に、原告製品には、目につきやすい個所に原告製品のシリーズ名である「○○」及び原告の商号の英文による略称である「□□」の表示が付されており、こうした表示が原告製品を識別、選択する上で大きな働きをしていることは否定できないというべきである(ちなみに、被告製品についても、同様に、目につきやすい個所に被告製品のシリーズ名である「××」及び被告の商号の英文による略称である「◇◇」の表示が付されている。取引者については、なおさらのこと、製品の色彩のみによって製品を識別して取引をするとは考え難い。
5 総括
以上にみてきたところを総合考慮し、消費者が、その色彩のみに着目して家電製品を識別、選択して購入するということは、通常考え難く、一般的には、製品の機能性、安全性、堅牢性のほか、どのメーカーの製品であるか等の点も確認したうえで製品を選択し購入するものと考えられることに照らすと、原告製品が濃紺色の家電製品であるという点が、□□」及び「○○」の表示とは別に、独立して原告の製品であるとの出所表示機能を取得するに至っているとは認められず、原告製品の「濃紺色」がその商品表示となっているとはいえない。

第五 結論
以上によれば、原告主張の原告製品の特徴(原告製品が濃紺色の家電製品であること)は、原告の商品であることを示す出所表示機能を取得するに至っているものとは認められないから、これを前提とする原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由のないことが明らかである。