1 就業規則

(1)意義

就業規則とは、使用者が、労働者の労働条件や、従業員が守るべき服務規律・職務規律について定めた規則をいいます。これは、「従業員規則」や「工場規則」などという名称で定められる場合もあります。

就業規則の作成を義務付けられているのは、常時10人以上の労働者を使用する使用者であり(労働基準法第89条柱書)、一時的に10人未満となる場合も同様です。また、臨時工やパートタイム労働者なども、労働者に含まれます。

(2)効力

就業規則が労働契約に及ぼす効力には、「最低基準保障の効力」と「拘束力」があります。

 (ア)最低基準保障の効力

就業規則上の労働条件の基準に達しない労働条件を定めた労働契約は、その部分について無効となります(強行的効力)。そして、その無効となった部分は、就業規則で定める基準によることになります(直律的効力)(労働契約法第12条、労働基準法第93条)。例えば、就業規則において1日の労働時間を7時間と定めていたのに、労働契約で労働時間を8時間とした場合には、1日の労働時間は就業規則に基づいて7時間となります。

なお、無効となるのは就業規則で定める基準に「達しない」労働契約の場合であり、それを上回る内容の労働契約は有効です。

 (イ)拘束力

使用者が、合理的な労働条件を定めた就業規則を労働者に対して周知させていた場合には、当該就業規則で定める労働条件が、労働契約の内容となります(拘束力)(労働契約法第7条本文)。就業規則の労働条件が合理的であり、かつ、周知されていた場合には、労働者がこれを知らなかった、または同意していないとの理由で効力を争うことはできません。

 (3)法的性格

最高裁は、就業規則は、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるとしています(秋北バス事件・最大判昭和43年12月25日。この考え方をさらに明確にしたものとして、電電公社帯広局事件・最1小判昭和61年3月13日)。

(4)使用者の義務

使用者が就業規則を作成するにあたっては、意見聴取義務、届出義務及び周知義務を負っています。

 (ア)意見聴取義務

使用者は、就業規則の作成及び変更にあたり、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその組合、そのような労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表する者の意見を聞かなければならないとされています(労働基準法第90条第1項、労働契約法第11条)。この意見聴取は、就業規則の作成及び変更の過程で、できるだけ労働者の意見を反映させるためになされます。

意見を聴けば足り、それ以上に、協議を行ったり、同意を得たりすることまでも義務付けられているわけではありません。

意見聴取手続を履行していない場合には、最低基準保障の効力(労働契約法第12条)は生じません。一方、拘束力は、問題なく認められます。

 (イ)届出義務

使用者は、作成及び変更した就業規則を、行政官庁(労働基準監督署長)に届け出なければなりません(労働基準法第89条柱書、労働契約法第11条)。届出にあたっては、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその組合、そのような労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表する者の意見を記した書面(労働者の代表の署名または記名押印のあるもの)を添付しなければなりません(労働基準法第90条第2項、労働基準法施行規則第49条第2項)。

届出を行っていない場合には、最低基準保障の効力(労働契約法第12条)は生じません。一方で、拘束力は認められます。

 (ウ)周知義務

使用者は、就業規則を、各作業場の見やすい場所に常時掲示しまたは備え付けること、書面を交付すること、またはコンピューターを使用した方法等によって、労働者に周知させなければなりません(労働基準法第106条第1項、労働基準法施行規則第52条の2)。

周知手続を履行しない場合には、最低基準保障の効力(労働契約法第12条)は生じますが、拘束力は生じません(朝日新聞社事件・最大判昭和27年10月22日。フジ興産事件・最2小判平成15年10月10日)。

2 判例

(1)秋北バス事件(最大判昭和43年12月25日)

【事案の概要】Y社においては、一般職種の労働者の定年は50歳とされていたが、主任以上の職にある者については、定年の定めがなかった。Y社が就業規則を改正して55歳を定年としたので、主任以上の職にあるXが、55歳定年制に同意しないとして、就業規則の無効及び雇用関係の存在の確認を求めた。

【判旨】最高裁は、就業規則は、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立し、その法的規範が認められるに至っているとして、労働者の知不知や個別的同意の有無にかかわらず、当然に、その適用を受けると判断した。

「元来、『労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである』(労働基準法2条1項)が、多数の労働者を使用する近代企業においては、労働条件は、経営上の要請に基づき、統一的かつ画一的に決定され、労働者は、経営主体が定める契約内容の定型に従って、附従的に契約を締結せざるを得ない立場に立たされるのが実情であり、この労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている(民法92条参照)ものということができる。」「当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるものというべきである。」

(2)電電公社帯広局事件(最1小判昭和61年3月13日)

【事案の概要】Y社から職業病の頸肩腕症候群の精密検診の受診命令を受けた電話交換手Xが、当該命令を拒否して戒告処分を受けた。そこで、Xは、医療行為を受けるか否かは個人の自由であり、検診の業務命令は違法であるとして、Y社に対して、処分の取消しを求めた。

【判旨】最高裁は、就業規則が、労働者に対し、一定の事項につき使用者の業務命令に服すべき旨を定めている場合、右規定内容が合理的なものであるかぎり、右規定内容は労働契約の内容となり、労働者に義務づけることになると判断した。

「就業規則が労働者に対し、一定の事項につき使用者の業務命令に服従すべき旨を定めているときは、そのような就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいて当該具体的労働契約の内容をなしているものということができる。」