1 36協定

(1)意義

使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁(労働基準監督署長)に届け出た場合においては、時間外労働あるいは休日労働をさせることができます(労働基準法第36条第1項)。この場合の協定を、「36(さぶろく)協定」といいます。

36協定には、時間外・休日労働をさせる具体的事由、業務の種類、労働者の数、1日及び1日を超える期間について延長することのできる時間、労働させることのできる休日を記載しなければなりません(労働基準法施行規則第16条)。

労働基準法第36条第1項に違反した使用者は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労働基準法第119条)。

(2)時間外労働に応じる義務

36協定は、使用者が時間外労働や休日労働を命じても、法定労働時間制(労度基準法第32条)や週休制(同第35条)の違反を免れさせる効果をもちます。しかし、使用者が当然に労働者に時間外労働を命じる民事上の権利が生じるわけではなく、労働者も民事上の義務を負うわけではありません。

そこで、時間外労働及び休日労働に応じる義務がいかなる場合に認められるのかが、学説上争われていましたが、最高裁は、36協定の締結、届出があり、かつ、労働者の時間外労働に応じる義務を定めた労働協約または就業規則がある場合に、そのような義務が認められると判断しました(日立製作所武蔵工場事件・最1小判平成3年11月28日)。

2 判例

 

日立製作所武蔵工場事件(最1小判平成3年11月28日)

【事案の概要】 Y社M工場の就業規則では、業務上の都合によりやむを得ない場合には、労働組合との協定により実働時間を延長することがある旨が規定されるとともに、いわゆる36協定が適法に締結されていた。

Y社M工場で働くXは残業命令を拒否したところ、Y社から懲戒解雇された。そこでXはY社に対し、残業は労働者の権利であり義務ではないとして、懲戒解雇の無効確認を求めた。

【判旨】 最高裁は、時間外労働義務を労働者に負わせるためにはいわゆる36協定に加え、就業規則で時間外労働義務を課す旨を明示することを要し、その規定が合理的なものである限りは労働者を拘束するとした。なお、一般的に時間外労働義務規定が合理的といえるためには、時間外労働が生じる事由が限定されることを要するが、本件ではある程度概括的・網羅的ではあるものの、合理性が否定されるものではないとされた。

「思うに、労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる三六協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該三六協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする。」