1 労働時間の管理方法

使用者は、労働時間の長さに応じて割増賃金の支払いを課されます(労働基準法第37条)。また、使用者は、労働者各人別の労働時間数、時間外労働時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数を賃金台帳へ記載しなければなりません(同第108条、労働基準法施行)。そのため、使用者は、労働時間を正確に把握して適正に管理する義務を負っています。

厚生労働省も、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」という通達を出し、使用者の、労働時間を適正に把握及び管理する義務を定めています。そして、当該通達には、(1)使用者は労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認・記録すべきこと、(2)確認記録方法としては,使用者自らが現認するかタイムカード、ICカードなどの客観的な記録の利用が原則であること、(3)労働者の自己申告制によらざるを得ない場合は,正しい申告を行うよう労働者に十分な説明や調査を行い、かつ適正な申告を阻害する目的で時間数の上限を設定するなどの措置を講じないことなどを求めています(平成13年4月6日基発339号)。

 

2 時間外手当の支払い

(1)割増賃金の算定

 (ア)割増率

使用者は、時間外労働に対しては,「通常の労働時間又は労働日の賃金」の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法第37条第1項)。また、使用者は、法定の休日に労働をさせた場合は、3割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません(同条項)。さらに,午後10時から午前5時までに労働させた場合は、2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません(同条項)。

休日労働と時間外労働が重なった場合は、3割5分以上率で計算した割増賃金を支払うことになります。深夜労働と時間外労働が重なった場合には、割増率が加算されて5割以上、深夜労働と休日労働が重なった場合には、割増率が加算されて6割以上の率で計算した割増賃金の支払いが必要となります。

 (イ)算定基礎

割増賃金算定の基礎となる「通常の労働時間又は労働日の賃金」は、(1)時間給の場合はその額、(2)月給制の場合はその額を月の所定の労働時間で割った額、(3)出来高制の場合は、それを計算期間内の総労働時間で割った額となります(労働基準法施行規則第19条第1項)。

算定の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当、別居手当、住宅手当、子女教育手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間で支払われる賃金は含まれません(労働基準法第37条第5項、労働基準法施行規則第21条)。

(2)定額制と定額賃金

時間外労働の把握が困難な企業において、時間外労働の時間数にかかわらず、一定額の手当(営業手当や乗務手当など)を支給する「定額制」を採用することがあります。このような手当の支払いも、その金額が労働基準法第37条に反していなければ、許されます。支払われた手当が、同条に基づいて算定された割増賃金より低額であれば、その差額を支払う必要があります。

また、支給する賃金の一部に時間外割増賃金が含まれているとして、特別の支払いをしない「定額賃金制」を採用する企業もあります。この場合は、通常の労働時間に対する部分と割増賃金に相当する部分とが区別されていないときには、労働基準法第37条の割増賃金の支払いがあったとは認められず、改めて時間外労働や深夜労働に対して同条によって算出される割増賃金を支払わなければなりません(高知県観光事件・最2小判平成6年6月13日、テックジャパン事件・最1小判平成24年3月6日)。

 

3 判例

高知県観光事件(最2小判平成6年6月13日)

【事案の概要】XらはY社にタクシー乗務員として勤務していた。Xらの勤務は隔日で午前8時から翌午前2時までであり、賃金は完全歩合制で、同人らが時間外労働・深夜労働を行った場合も、それ以外の賃金は支給されていない。

XらはY社に対し、午前2時以降の時間外労働及び午後10時から翌午前5時までの深夜労働の割増賃金が支払われていないとして、その支払及び賦課金支払いを求めた。

【判旨】最高裁は、労基法上の時間外及び深夜労働が行われたときにも金額が増加せず、また、給料の内通常の労働時間の賃金にあたる分と時間外・深夜労働の賃金にあたる分を判別できないときは、別に割増賃金の支払を要するとした。

「上告人らの本訴請求について判断するに、本件請求期間に上告人らに支給された前記の歩合給の額が、上告人らが時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、上告人らに対して法三七条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべきであり、被上告人は、上告人らに対し、本件請求期間における上告人らの時間外及び深夜の労働について、法三七条及び労働基準法施行規則一九条一項六号の規定に従って計算した額の割増賃金を支払う義務があることになる。」

「そして、本件請求期間における上告人らの時間外及び深夜の労働時間等の勤務実績は、本件推計基礎期間のそれを下回るものでなかったと考えられるから、上告人らに支払われるべき本件請求期間の割増賃金の月額は、本件推計基礎期間におけるその平均月額に基づいて推計した金額を下回るものでなく、その合計額は、第一審判決の別紙2ないし5記載のとおりとなるものと考えられる。したがって、これと同額の割増賃金及びこれに対する弁済期の後の昭和六三年一月二二日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める上告人らの各請求は、いずれも理由がある。また、上告人らは、法一一四条(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)の規定に基づき、右の各割増賃金額と同額の付加金及びこれに対する本判決確定の日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めているが、本件訴えをもって上告人らが右の請求をした昭和六二年一二月二五日には、本件請求期間における右の割増賃金に関する付加金のうち昭和六〇年一一月分以前のものについては、既に同条ただし書の二年の期間が経過していることになるから、この部分の請求は失当であり、その余の部分に限って右の請求を認容すべきである。」