1 休日の取扱い

就業規則等で休日の曜日指定がされている場合、休日の曜日特定は労働契約の内容になります。そのため、使用者が、本来の休日に労働させ本来の労働日を休日とする(休日振替)を一方的に行うことは認められません(労働契約法第8条)。

しかし、就業規則に振替が可能である旨及びその事由と手続について定めており、かつ、振替後の休日が、労働基準法第35条の基準を満たしている場合には、休日を振り替えることができます(三菱重工横浜造船所事件・横浜地判昭和55年3月28日)。このような手続をとらずに休日振替をすれば、休日労働と評価され,割増賃金を支払わなければなりません。

 

2 有給休暇

労働者には有給休暇を取得する権利が認められているため、使用者はその申出を拒否することはできず、その取得を理由に労働者を不利益に扱うことも禁止されています。

(1)有給休暇とは

有給休暇とは、労働基準法第39条の規定に従い、使用者が労働者に対して毎年一定程度与える有給の休暇をいいます。

有給休暇は、労働者が雇入れの日から6か月間継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤したときに付与されます(この労働者の権利を「年休権」といいます。労働基準法第39条第1項)。

継続して勤務したといえるかどうかは、勤務の実態、契約期間、有期契約の場合には有期とされる理由、契約期間の間隔などから実質的に判断されます(日本中央競馬会事件・東京高判平成11年9月30日)。

また、全労働日の8割以上出勤したかどうかは、当該機関の全労働日を分母,出勤日数を分子として計算します。この場合の全労働日は、就業規則などで労働義務があるとされた日をいいます(エス・ウント・エー事件・最3小判平成4年2月18日)。出勤日は現に出勤し就労した日です。しかし、労災職業病の療養のための休業、育児介護休業及び産前産後休養の各休業期間については、実際に出勤していなくても出勤日数として取り扱われることになっています(労働基準法第39条第8項)。また、年休取得日も出金日数に加算されます。これに対し、正当なストライキによって就労しなかった日、使用者の責に帰すべき事由による休業日、生理休暇日、慶弔休暇日は、分母として加えずに計算します。

有給休暇の成立要件を満たした労働者には、6か月間勤務した翌日に10日の年休権が生じます。それ以降は、1年勤続年数が加わるごとに、最初の1年及び2年は1日、3年目以降は2日の割合で年数が加算され、6年6か月の継続勤務以降は上限が20日となります(労働基準法第39条第2項)。

勤続年数 6か月~ 1年

6か月~

2年

6か月~

3年

6か月~

4年

6か月~

5年

6か月~

6年

6か月~

年休日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日

週の所定労働時間が30時間未満で、労働日数が4日以下のパートタイム労働者は、年休日の最低付与日数が別途定められています(労働基準法第39条第3項、以下の表をご参照ください。)

週所定

労働日数

1年間の所定労働日数 継続勤務期間
6か月 1年

6か月

2年

6か月

3年

6か月

4年

6か月

5年

6か月

6年

6か月以上

4日 169~216日 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
3日 121~168日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
2日 73~120日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
1日 48~

72日

1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日

 

(2)有給休暇の取得方法

 (ア)時季指定権

使用者は、労働者の請求する時季に有給休暇を与えなければなりません(これを労働者の「時季指定権」といいます。労働基準法第39条第5項)。使用者の承認は不要で(林野庁白石営林署事件・最2小判昭和48年3月2日)、労働者は休暇をとる日や期間(「月○日から○月△日まで」や「夏季に○日間」など)を指定して使用者に届け出れば足ります。

使用者は、労働者の時季指定に対して、代替勤務者を確保するなどしてできるだけ労働者の希望する時季に休暇が取得できるよう配慮しなければならないとされています(弘前電報電話局事件・最2小判昭和62年7月10日、西日本ジェイアールバス事件・名古屋高金沢支判平成10年3月16日)。また、有給休暇の利用目的は自由であり、使用者がこれに干渉することは許されません(林野庁白石営林署事件)。

 (イ)時季変更権

 

労働者が時季指定権を行使した場合であっても、使用者は、指定された時季に有給休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」には、他の時季に与えることができます(これを使用者の「時季変更権」といいます。労働基準法第39条第5項但書)。

「事業の正常な運営を妨げる場合」といえるかどうかは、事業の範囲、労働者の職務の性質などを前提として、業務の繁忙の度合いや代替勤務者の確保の難易、同時期の休暇の取得者などを考慮して判断されます。

 (ウ)計画的付与

使用者は、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合があるときにはその組合、過半数労働組合がないときは過半数代表者と協定を結び、休暇日数のうち5日を超える部分についてはその協定で定めた計画で有給休暇を与えることができます(労働基準法第39条第6項)。

このような協定による個々の労働者の時季指定権及び使用者の時季変更権の排除の効果は、組合員であるか否かを問わず、これに反対する労働者に対しても及ぶとされています(三菱重工長崎造船所事件・福岡高判平成6年3月24日)。

 

(3)有給休暇取得と不利益取扱い

年休権は労働条件の最低基準として労働基準法により保障されるものです。そのため、有給休暇を取得したことを理由として、労働者の賃金等の労働条件について不利益な取扱いをすることは許されません(労働基準法附則第136条)。このような取扱いは、労働基準法第39条第1項違反または公序違反(民法第1条第2項)となります。

有給休暇取得日を、賞与の計算において欠勤日として扱うこと(エス・ウント・エー事件・最3小判平成4年2月18日)、有給休暇取得申請をした労働者を呼び出して申請を取下げさせ、出勤した日に業務指示をすること(日能研関西ほか事件・大阪高判平成24年4月6日)などは,不利益取扱いとされています。これに対し、タクシー運転手の翌月の勤務予定表作成後に請求した有給休暇について、これを精皆勤手当の算定において欠勤扱いとすることは、年休権の行使を抑制し、当該権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものでない限り、不利益取扱いとはいえないとした判例もあります(沼津交通事件・最2小判平成5年6月25日)。

 

(4)判例

林野庁白石営林署事件(最2小判昭和48年3月2日)

【事案の概要】 営林署に努める林野庁職員Xは、昭和33年12月9日に、翌10日と11日に有給休暇をとることを請求し、両日を出勤しなかった。その後営林署長はXの請求を不承認とし欠勤扱いとしたため、Xは国に対し未払い賃金及び遅延損害金の支払いを求めた。

【判旨】最高裁は、国によってなされた労働者の有給休暇請求に対し使用者の付与行為を要しないと判断したのは労基法39条の解釈を誤ったものであるとの主張を退け、年次有給休暇の発生要件としては使用者の付与行為は要しないとした。

「労基法三九条一、二項の要件が充足されたときは、当該労働者は法律上当然に右各項所定日数の年次有給休暇の権利を取得し、使用者はこれを与える義務を負うのであるが、この年次休暇権を具体的に行使するにあたっては、同法は、まず労働者において休暇の時季を「請求」すべく、これに対し使用者は、同条三項但書の事由が存する場合には、これを他の時季に変更させることができるものとしている。かくのごとく、労基法は同条三項において「請求」という語を用いているけれども、年次有給休暇の権利は、前述のように、同条一、二項の要件が充足されることによって法律上当然に労働者に生ずる権利であって、労働者の請求をまって始めて生ずるものではなく、また、同条三項にいう「請求」とは、休暇の時季にのみかかる文言であって、その趣旨は、休暇の時季の「指定」にほかならないものと解すべきである。」

「年次有給休暇に関する労基法三九条一項ないし三項の規定については、以上のように解されるのであって、これに同条一項が年次休暇の分割を認めていることおよび同条三項が休暇の時季の決定を第一次的に労働者の意思にかからしめていることを勘案すると、労働者がその有する休暇日数の範囲内で、具体的な休暇の始期と終期を特定して右の時季指定をしたときは、客観的に同条三項但書所定の事由が存在し、かつ、これを理由として使用者が時季変更権の行使をしないかぎり、右の指定によって年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅するものと解するのが相当である。すなわち、これを端的にいえば、休暇の時季指定の効果は、使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生するのであって、年次休暇の成立要件として、労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はないものといわなければならない。」

 

三菱重工長崎造船所事件(福岡高判平成6年3月24日)

【事案の概要】Y社は、Y社A造船所の従業員の98%で組織するC組合と計画年休協定(労基法39条6項)を締結した。計画年休に反対する少数組合Bの組合員Xが、計画年休を無視して年休権行使を主張したところ、Y社は、計画年休を前提とするとXの年休権行使は認められないとして、欠勤分の賃金を控除した。

そこで、Xは計画年休協定の効果が自身に及ばないことを理由として残存保有有給休暇日数の確認及び控除分の賃金支払いを求めた。

【判旨】福岡高裁は、労基法39条6項の協定で年休時季指定が集団的統一的に特定された場合、その日数についての時季指定権・変更権はともに排除され、協定適用につき著しく不公正・不合理な事情がない限り、その効果は協定の適用対象とされた事業場の全従業員に及ぶとする原審の判断を是認したうえで、本件では著しく不公正・不合理な事情が認められないとして、協定に反対する少数組合の組合員であっても同協定の効力は及ぶとした。

「被控訴会社長崎造船所における本件計画年休は、労基法三九条五項の規定により年次有給休暇の計画的付与制度が新設されたことに伴い、その趣旨に則り、年次有給休暇の取得を促進するため、平成元年から、全体の約九八パーセントの従業員によって構成される重工労組との間の書面による協定に基づいて実施されたものであるところ、本件協定の締結に当たっては、昭和六三年一〇月以降、三つの労働組合との団体交渉を通じて、右制度導入の提案、趣旨説明、意見聴取等適正な手続きを経由したことが認められる。そして、本件計画年休は、その内容においても、事業所全体の休業による一斉付与方式を採用し、計画的付与の対象日数を二日(平成五年からは、四日)に絞るとともに、これを夏季に集中することによって大多数の労働者が希望する一〇日程度の夏季連続休暇の実現を図るという法の趣旨に則ったものであり、現時点において年休取得率の向上に寄与する結果が得られていると否とを問わず、本件選定者ら(長船労組組合員)について適用を除外すべき特別の事情があるとは認められない以上、これに反対の本件選定者ら(長船労組組合員)に対しても、その効力を有するものというべきである。」