第1 事案の概要 

被告Y社との間で期間の定めのある労働契約を締結した原告X1~X3が、期間の定めのない労働契約を締結しているY社の正社員と同一内容の業務に従事していながら、手当等の労働条件について正社員と差異があることが労契法20条に違反するとして、Y社社員給与規程およびY社社員就業規則の各規定がXらにも適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、労契法20条施行前においても公序良俗に反すると主張して、同条施行前については不法行為による損害賠償請求権に基づき、施行後については同条の補充的効力を前提とする労働契約に基づき、予備的に不法行為による損害賠償請求権に基づき、諸手当の正社員との差額と遅延損害金の支払いを求めた事案である。

 

第2 本件の争点

①労契法20条違反の成否、②労契法20条の効力、③公序良俗違反の有無、④Xらの損害

 

第3 参照条文

労働契約法第二十条

有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 

第4 争点に対する判断

1 争点①(労契法20条違反の成否)について

(1)期間の定めによる相違であるか否か

労契法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が不合理なものであることを禁止する趣旨であるところ、同条の「期間の定めがあることにより」という文言は、有期契約労働者の労働条件が無期契約労働者の労働条件と相違するというだけで、当然に同条の規定が適用されるものではなく、当該有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が、期間の定めの有無に関連して生じたものであることを要する趣旨であると解される。 本件において原告らが主張する時給制契約社員と正社員との間の諸手当や休暇等の労働条件の相違は、いずれも、正社員には社員就業規則(甲1、10)及び社員給与規程(甲2、11)が適用され、契約社員には期間雇用社員就業規則(甲3、12)及び期間雇用社員給与規程(甲4、13)が適用されることによるものであり、このように適用される就業規則等が異なるのは、有期労働契約か無期労働契約かによるのであるから、上記相違は、期間の定めの有無に関連して生じたものであると認められる。

(2)不合理と認められるものか否かの判断の構造等

ア 労契法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との労 働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情(以下、この3つを併せて「職務の内容等」ということがある。)を考慮して、「不合理と認められるものであってはならない」と規定し、「合理的でなければならない」との文言を用いていないことに照らせば、同条は、問題となっている労働条件の相違が不合理と評価されるかどうかを問題としているのであって、合理的な理由があることまで要求する趣旨ではないと解される。そして、「不合理と認められるもの」という文言から規範的要件であると解されるので、同条の不合理性については、労働者において、相違のある個々の労働条件ごとに、当該労働条件が期間の定めを理由とする不合理なものであることを基礎付ける具体的事実(評価根拠事実)についての主張立証責任を負い、使用者において、当該労働条件が不合理なものであるとの評価を妨げる具体的事実(評価障害事実)についての主張立証責任を負い、主張立証に係る労契法20条が掲げる諸要素を総合考慮した結果、当該労働条件の相違が不合理であると断定するに至らない場合には、当該相違は同条に違反するものではないと判断されることになる。

イ 同条は、不合理と認められるものか否かの判断に当たり、①職務の内容、②当該職務内容、配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮要素としているところ、その規定の構造や文言等からみて、①及び②が無期契約労働者と同一であることをもって、労働条件の相違が直ちに不合理と認められるものではなく、両当事者の主張立証に係る①から③までの各事情を総合的に考慮した上で不合理と認められるか否かを判断する趣旨であると解される。このように労契法20条の判断において、職務内容は判断要素の一つにすぎないことからすると、同条は、同一労働同一賃金の考え方を採用したものではなく、同一の職務内容であっても賃金をより低く設定することが不合理とされない場合があることを前提としており、有期契約労働者と無期契約労働者との間で一定の賃金制度上の違いがあることも許容するものと解される。

ウ 個々の労働条件ごとに相違の不合理性を判断すべきか否かにつき、被告は、本件で問題とされる各手当は、賃金の一部を構成しており、これを含めて全体として一つの賃金体系が構築されていることや、休暇を含めて人事制度や賃金体系と密接不可分に関連するから、個別の労働条件ごとに不合理性を論じること自体が不適切である旨主張する。しかしながら、労使交渉において個別の労働条件を交渉する場合においても、例えば、基本給と手当のように密接に関連する労働条件については、最終的に賃金の総額を見据えた交渉が行われるのが通例であることや、手当や待遇の中には共通の趣旨を含むものがあることもままみられることも公知の事実であり、個別の労働条件ごとに相違の不合理性を判断する場合においても、個々の事案におけるそのような事情を「その他の事情」として考慮した上で、人事制度や賃金体系を踏まえて判断することになるのであるから、被告の上記主張は、採用することができない。なお、厚生労働省労働基準局長発都道府県労働局長あて平成24年8月10日付け基発0810第2号「労働契約法の施行について」においても、「法第20条の不合理性の判断は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されるものであること」とされている。

(3)各労働条件の不合理性

ア 年末年始勤務手当

(ア)前提事実(4)及び(5)に摘示のとおり、正社員は、12月29日から翌年の1月3日までの間において実際に勤務した時に年末年始勤務手当が支給され、その額は、12月29日から同月31日までは1日4000円、1月1日から同月3日までは1日5000円(いずれも、実際に勤務した時間が4時間以下の場合は、その額の100分の50に相当する額。)であり、一方で時給制契約社員に対しては支給されておらず、年末年始勤務手当の支給について正社員と時給制契約社員との間に相違が存在する。

(イ)証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば、年末年始は年賀状の準備及び配達等により平常時の数倍の業務量が集中するという郵便事業の特殊性に鑑み、昭和32年に年末年始特別繁忙手当が導入され、その後、支給要件や支給額等がその都度定められて正社員に支払われてきたこと、平成17年10月1日から、それまでの年末年始特別繁忙手当が廃止され、その原資の一部によって年末年始勤務手当が創設されたことが認められる。 これらの事実に加え、年末年始勤務手当は、1日4時間を越える勤務をした場合には5000円(1月)又は4000円(12月)が、4時間以下はその半額が支払われるものであり、勤務内容にかかわらず一律額が支給されること、官公庁では行政機関の休日に関する法律により、12月29日から翌年1月3日を休日とし、原則として執務を行わず、民間においても、同時期が繁忙期である業種等を除いて概ねこれに準じていることは公知の事実であることを踏まえると、多くの労働者が年末年始の上記期間を休日として過ごしているのに対し、被告においては、年賀状の準備及び配達等の期間として、年間を通じて最繁忙時期となっており、その時期に実際に勤務した正社員に対し、通常の労働の対価としての基本給等に加えて、多くの国民が休日の中で最繁忙時期の労働に従事したことに対する対価として支払われるものであると認められる。

(ウ)被告は、単純な業務負担に対する対価として支払うのではなく、定年までの長期にわたり、年末年始に家族等と一緒に過ごすことができないことから、その労苦に報いるとともに、会社に貢献することのインセンティブを付与することにより、正社員の長期間の定着を図る趣旨であり、仮に業務負担に対する対価であるとすれば、手当の算出方法を(ママ)業務内容や業務量に応じたものとなっているはずであるのに、基本的に一律額となっていることからも、業務負担に対する対価ではない旨主張する。 しかしながら、年末年始勤務手当は、1日4時間以下であっても、勤務に従事さえすれば少なくとも半額が支払われるものであって、最繁忙期である年末年始の当該期間において、勤務の内実を問うことなく、勤務に就いたこと、すなわち労働に従事したこと自体に対する対価として一律額が支給されるものであって、実際の業務の負担が当該期間以外と比較してどの程度過重なものであるかを考慮して同手当が支給されているものではないから、業務に従事したことの対価であることと手当額が一律額であることとは矛盾するものではない。

(エ)これまで判示してきた年末年始の期間における労働の対価として一律額を基本給とは別枠で支払うという年末年始勤務手当の性格等に照らせば、長期雇用を前提とした正社員に対してのみ、年末年始という最繁忙時期の勤務の労働に対する対価として特別の手当を支払い、同じ年末年始の期間に労働に従事した時給制契約社員に対し、当該手当を全く支払わないことに合理的な理由があるということはできない。もっとも、年末年始勤務手当は、正社員に対する関係では、定年までの長期間にわたり年末年始に家族等と一緒に過ごすことができないことについて長期雇用への動機付け(ママ)いう意味がないとはいえないことから、正社員のように長期間の雇用が制度上予定されていない時給制契約社員に対する手当の額が、正社員と同額でなければ不合理であるとまではいえないというべきである。

(オ)したがって、年末年始勤務手当に関する正社員と時給制契約社員との間の相違は、同社員に対して当該手当が全く支払われないという点で、不合理なものであると認められる。

イ 早出勤務等手当

(ア)後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 a早出勤務等手当は、沿革的には、昭和23年政令第323号の政府職員の特殊勤務手当に関する政令に規定されていた特殊勤務手当に由来するもので、正社員が勤務シフトによって早出勤務等が必要となることがあり、この場合に早出勤務等が必要のない他の業務に従事する正社員との間の公平を図るために昭和41年に新設され、現在まで支給されているものであり、その都度の労使協議を経て支給額が決定されている。(〈証拠・人証略〉) b 時給制契約社員については、正規の勤務時間として始業時刻が午前7時以前となる勤務又は終業時刻が午後9時以後午後10時以前となる勤務に1時間以上従事したときは、勤務1回につき、始業、終業時刻に応じて200円、300円又は500円の早朝・夜間割増賃金が支給されるところ、これは、時間外労働に対する対価でなく、労働基準法37条の割増賃金とは異なるものである。(甲4・109条、97条) c 正社員は正規の勤務時間のうち、当該勤務に4時間以上勤務した場合に早出勤務等手当が支給されるのに対して、時給制契約社員は指定された勤務時間のうち、当該勤務に1時間以上勤務した場合に早朝・夜間割増賃金が支給されるのであり、この支給要件の関係では、時給制契約社員に有利となっている。(〈証拠略〉) d 時給制契約社員については、採用の際に、早朝や夜間の時間帯に勤務することを前提とした上で雇用契約を締結している。(〈証拠・人証略〉)

(イ)以上のとおり、正社員に対しては勤務シフトに基づいて早朝、夜間の勤務を求め、時給制契約社員に対しては募集や採用の段階で勤務時間帯を特定して採用し、特定した時間の勤務を求めるという点で、両者の間には職務の内容等に違いがあることから、正社員に対しては、社員間の公平を図るため、早朝勤務等手当を支給するのに対し、時給制契約社員に対して支給しないという相違には、相応の合理性があるといえる。また、時給制契約社員については、早朝・夜間割増賃金が支給されている上、時給を高く設定することによって、早出勤務等について賃金体系に別途反映されていること、類似の手当の支給に関して時給制契約社員に有利な支給要件も存在することからすれば、早出勤務等手当における正社員と時給制契約社員との間の相違は、不合理であると認めることはできない。

2 争点④(原告らの損害)について

(1)有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められて労契法20条違反となる有期契約労働者の労働条件には、同条の定める職務の内容等に関する相違の内容や程度等及び当該労働条件の性質や相違する程度等の総合判断により、無期契約労働者と同一内容でないことをもって直ちに不合理であると認められる労働条件と、無期契約労働者と同一内容の労働条件ではないことをもって直ちに不合理であるとまでは認められないが、有期契約労働者に対して当該労働条件が全く付与されていないこと、又は付与はされているものの、給付の質及び量の差異の程度が大きいことによって不合理であると認められる労働条件があるものと解される。

(2)無期契約労働者と同一内容の労働条件でないことをもって直ちに不合理であると認められる労働条件の場合には、差異があること自体が不合理なのであるから、不法行為における損害の算定においては、無期契約労働者に対する手当等との差額全額を損害として認めるべきである。

(3)これに対して、有期契約労働者に当該労働条件が全く付与されていないこと、又は無期契約労働者との間の給付の質及び量の差異をもって不合理であると認められる労働条件の場合には、損害の算定に当たっても、前判示に係る労契法20条違反とされた有期契約労働者の労働条件の不合理性をどのような形で解消すべきかという観点から検討する必要がある。すなわち、有期契約労働者に対し、労契法20条に違反しない形で当該労働条件を付与するためには、使用者の人事制度全体との整合性を念頭に置きながら、有期契約労働者と無期契約労働者の想定される昇任昇格の経路や配置転換等の範囲の違い等を考慮しつつ、労使間の個別的あるいは集団的交渉の経緯等も踏まえて、職務の内容の相違等に照らして不合理とはならない限度の労働条件を付与すべきところ、これを損害の公平な分担の理念に基づき現実の損害を填補するという損害の算定の面からみると、有期契約労働者に対して支給されている不合理とされた手当等の額と、上記の過程を経て決定される手当等の額との差額をもって損害と認めるべきこととなる。

しかしながら、上記の種々の要素を踏まえて決定される給付されるべき手当額を証拠に基づき具体的に認定することは、その決定過程に照らして極めて困難であるといわざるを得ない。

本件の年末年始勤務手当及び住居手当については、いずれも、正社員に対する手当額と差異があることをもって直ちに不合理と認められたものではなく、時給制契約社員に対して当該労働条件が全く付与されていないことをもって不合理であると認められることは前判示のとおりであるので、各手当に関して原告らに損害が生じたことは認められるものの、損害の性質上、その額を立証することが極めて困難であるから、民事訴訟法248条に従い、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定すべきものである。

(4)年末年始勤務手当の相違による損害

年末年始勤務手当の額は、12月29日から31日までは1日4000円、1月1日から3日までは1日5000円であるところ、正社員に対する支給額は、正社員の業務内容、職務上の地位や基本給の額にかかわらず定額であること、年末年始勤務手当は、年末年始という特別の期間に労働に従事したことに対する対価であり、手当額が正社員一律の定額となっていることなどの事情は、時給制契約社員に対する手当額を正社員と同額とする方向に働く事情である一方で、正社員に対する同手当の給付には、長期雇用を前提とする正社員に対する動機付けという要素がないとはいえず、有期契約労働者は制度上は長期雇用が前提とされていないことなどの前判示に係る諸事情を考慮すると、正社員に対する支給額全額を損害と認めることはできず、本件に顕れた一切の事情を考慮し、旧一般職及び新一般職に対する支給額の8割相当額を損害と認めるのが相当である。  以下、原告らの勤務状況を年末年始手当の規定に当てはめて支給される額の8割相当額を算出する。

 

第5 事例のポイント

①労契法20条の不合理性の立証責任は、労働者側にある。

②労契法20条の不合理性の判断は、個々の労働条件ごとに行われる。

③損害の算定においては、無期契約労働者と同一内容の労働条件でないことをもって、ただちに不合理であると認められる労働条件の場合には、無期契約労働者に対する手当額等との差額全体を損害として認定するべきであるが、有期契約労働者に当該労働条件が全く付与されていないこと、又は無期契約労働者との間の給付の質及び量の差異をもって不合理であると認められる労働条件の場合には、民事訴訟法248条を適用し、損害額の認定がなされる。