1 試用期間とは

試用期間制度とは、新たに採用した労働者に対して、入社後、一定の実験観察期間を設け、この期間中に長期間雇用を継続する正規従業員としての適格性(人物や職務能力など)を評価して本採用するか否かを判断する制度です。

労働法には試用期間について定める直接の規定がありません。そのため、試用期間制度を用いるには、就業規則に、試用制度の有無、試用期間、期間延長の可能性の有無、使用者に解雇権等がある旨などの規定をおいておくのが一般的です。そして、試用期間制度の定めがあることを採用時に労働者に対して告知しなかった場合には、試用期間のない雇用契約が成立したものとされます(京新学園事件・大阪地決昭和60年12月25日)。

2 試用の法的性格

試用期間の付された労働契約の法的性格は、一般的には、「解約権留保付き労働契約」であるとされています(三菱樹脂事件・最大判昭和48年12月12日。社会福祉法人愛徳姉妹会事件・大阪地判平成15年4月25日)。つまり、使用者が試用期間中に従業員の身元調査の補充や勤務状態の観察をして、正規従業員として不適当であると判断した場合には、使用者が留保していた解約権を行使し、労働契約を解約することができます。

3 試用期間の長さ・延長

(1)長さ

試用期間中には、労働者は本採用されるかわからず不安定な地位におかれることになります。そのため、合理的な理由なく、不当に長い試用期間は、公序違反あるいは当事者意思の合理的解釈により、効力が制限されることがあります。

妥当な試用期間の長さは、職種や地位により異なりますが、一般的には数か月(1か月ないし6か月)にとどめるべきとされています。しかし、仕事のサイクルに合わせて学校の教諭などは1年を試用期間としても不合理とはいえません。試用期間をどの程度と設定すべきかについては、個別具体的に決めていく必要がありますので、適宜ご相談ください。

(2)延長

試用期間の延長は、労働者の不安定な地位におかれる期間を長めてしまうものです。そのため、就業規則などで期間延長の可能性やその理由、期間などを明記していない限り、法的効力はないとされています(大阪読売新聞社事件・大阪高判昭和45年7月10日。上原製作所事件・長野地諏訪支判昭和48年5月31日)。

就業規則に試用期間を「延長することができる」旨の規定があるときであっても、その効力を限定的に解釈し、使用者には原則として正社員に登用する義務があると判断した裁判例もあります(大阪読売新聞社事件。大阪高判昭和45年7月10日)。また、2か月の見習い社員としての契約期間中、試用社員登用試験に合格した場合、さらに6か月ないし1年3か月の試用期間を課すのは、公序良俗違反とされています(ブラザー工業事件。名古屋地決昭和59年3月23日)。

しかし、所定の試用期間中に労働者が長期休業するなどして正規従業員としての適格性が判断できなかった場合や試用期間中に発見された適格性を疑わせる事情を試用期間を延長してさらに慎重に判断する必要がある場合などには、試用期間の延長が直ちに労働者にとって不利益になるとはいえないので、相当な理由に基づく延長として認められることがあります。

4 本採用拒否

(1)本採用許否の要件

試用期間は実験観察期間としての性質を有するので、職務能力や適格性の評価に基づいて、通常の解雇の場合に比べ、より広く解約権の行使(解雇権の行使)が認められます。しかし、試用期間を経て本採用を拒否できるのは、「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認されうる場合」に限られます(三菱樹脂事件。最高裁昭和48年12月12日大法廷判決)。例えば、親会社の社長に声を出して挨拶しなかったことを理由に採用を取消す場合(テーダブルジェー事件。東京地判平成13年2月27日)、業務能力の不良、不適格性、実務英語力の不足、職務経歴の不実記載などの理由が、事実に裏付けられていない場合(オーブンタイドジャパン事件。東京地判平成14年8月9日)及び3か月の試用期間のうち20日を残して能力欠如を理由に解雇する場合(医療法人健和会事件。東京地判平成21年10月15日)は、客観的に合理的理由を有し社会通念上相当であるとはいえないとされています。

これに対し、能力主義人事により能力ランク別に地位・賃金等に格差を設けている場合には、高いランクで採用した労働者の能力不足を理由とする本採用拒否は有効であり、使用者はより低いランクに降格させて雇用を続ける必要はないとされています(欧州共同体委員会事件。東京地判昭和57年5月31日)。

(2)本採用許否における紛争の予防

本採用許否に関する紛争を予防するために、本採用を拒否できる場合を客観的基準として定めておくことをおすすめします。例えば、試用期間中に一定の資格取得を求める制度や登用試験の設定などが考えられます。その他、紛争予防のための措置がありますが、個別案件に応じての措置となりますので、個別にご相談ください。

 5 判例

三菱樹脂事件(最高裁昭和48年12月12日大法廷判決)

【事案の概要】Xは、Y会社(三菱樹脂)の社員採用試験に合格し、大学卒業と同時にYに雇用された。しかし、3か月の試用期間満了にあたり、学生時代に自治会活動や各種の学生運動に従事していたにもかかわらず、それを身上書に記載せず、採用面接時に虚偽の回答をしたという理由で本採用を拒否された。

そこで、Xは、雇用契約上の権利確認等を求めて訴えを提起した。

【判旨】最高裁は、留保解約権行使(本採用の許否)は、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保するという解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認される場合にのみ許されると判断し、原審を破棄して差し戻した。(なお、差戻審(東京高判昭和51年3月11日)にて和解が成立し、Xは職場復帰した。)

試用期間の性質は、就業規則上の規定、本採用拒否の事例の有無、本採用手続の慣行などによれば、「Xに対する本件本採用の許否は、留保解約権の行使、すなわち雇入れ後における解雇にあたり、これを通常の雇入れの許否の場合と同視することはできない。」

本件における留保解約権は、「大学卒業者の新規採用にあたり、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他Yのいわゆる管理職要員としての適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解され」、「留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべき」である。

しかし、法が解雇権を宣言している趣旨、労働者に対する企業の優越的地位、試用期間中の労働者が他企業への就職の機会と可能性を放棄していることを踏まえるならば、「留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合……換言すれば、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、または知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、……客観的に相当であると認められる場合」に許容される。

Xが学生運動等を秘匿していたことが留保解約権行使の合理的理由となるか否かは、「秘匿等の動機、理由等に関する事実関係……に照らして、Xの秘匿等の行為および秘匿等にかかる事実が同人の入社後における行動、態度の予測やその人物評価等に及ぼす影響を検討し、それが企業者の採否決定につき有する意義と重要性を勘案し、これらを総合して上記の合理的理由の有無を判断しなければならない」として原審に差し戻した。