1 日照権とは

日照権とは、一般的に、建築物に日当たりを確保する権利のことをいいます。都市部は建物が混みあって建っていることから日照の問題が生じやすいともいえます。ただし、日照権侵害に基づく損害賠償請求が認められる場合というのは限定的であるという感覚を持っていた方がよいように思われます。

2 所有する土地には行政上の規制を除きどのような建物を建てることも自由

基本的には、土地の所有権に基づき、建築基準法上の日影規制(建基56条)等の行政上の規制に違反しない限り、自由に建物を建築できるのが原則です。したがって、原則的に、行政上の規制を遵守している限り、隣地所有者から損害賠償を請求されることはないともいえます。

3 いかなる場合に、日照権侵害を理由とする損害賠償請求が認められるか。

(1)損害賠償請求する場合の「損害」の内容

①日照がさえぎられたことによって良好な住環境を享受する利益を侵害されたとして、精神的苦痛に対する慰謝料

②土地建物の価格の減価分(東京地判H10.10.16)

③日照被害による光熱費の増加、賃料収入の減少分(東京地判H15.7.16)

④弁護士費用(大阪地判H8.9.25)

なお、近年は、太陽光発電・蓄電装置の普及及び売電制度が存在することから、太陽光の経済的価値に着目して、その具体的損害や将来の逸失利益が問題となることも考えられます。

(2)日照妨害の違法性に関する判断基準

裁判例上、日照妨害の程度が社会生活上一般に受忍すべき限度を超えた場合に違法とされる。

受忍限度を超えるか否かについては、①加害建物の建築基準法違反の有無、②地域性、③日照阻害の程度等を中心に、④他の要素も考慮して判断される(大阪地堺支H8.12.18参照)。以下順に詳述する。

①建築基準法違反の有無

建築基準法違反の場合には、直ちに受忍限度を超えるものと判断される。

違反しない場合でも、他の諸要素も考慮して受忍限度を超えるものと判断される場合がある。

日影規制対象区域内にある日影規制対象外建物については、判例上、日影規制をあてはめた場合の適合性を受忍限度判断の要素の一つとして考慮する傾向にある(大阪地判H4.2.21他多数)。

日影規制以外の建築基準法違反(接道義務違反等)については、実務上あまり重要視されない。∵規定の趣旨(cf.建築物の利用上の安全性等)が異なるため。

②地域性

日照阻害の程度とその地域における日照確保の必要性との相関関係により、日照妨害の違法性を判断する。

地域における日照確保の必要性を考えるにあたっては、まず都市計画法で定められる用途地域に着目する。例えば、日照阻害の程度が同程度であれば、用地地域が商業地であるほうが、住居地域であるよりも、日照確保の必要性の程度が低くなり、日照阻害の程度は受忍限度内との判断に傾く。

その他、地域の実態(現実の土地の利用状況、将来の地域の発展動向等)を考慮する。東京地判H3.9.20、大阪地判H8.9.25等参照。

③日照阻害の程度

第一次的には冬至日の、第二次的には春分及び秋分の午前8時から午後4時における、被害建物の南側開口部上の一測定点に生じる日照時間を計測し、日照阻害の程度を判断するのが一般的。

④その他の判断要素

加害回避可能性

被害回避可能性

被害建物の用途(日照確保の必要性の程度に差が生じる)

加害建物の用途(もっとも、この点を特に考慮した裁判例は少ない)

加害建物と被害建物の先後関係

加害建物の建築をめぐる交渉の経緯(建築主が被害者方への日照を考慮して設計変更するなど、日影に関する紛争が生じないように努力したなどと建築主と住民との交渉態度を考慮要素の1つとして、違法性がないと判断した裁判例として前掲大阪地堺支H8.12.18がある)。